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012 人の考えることはみな同じ。 [絵を動かす試み]

012 人の考えることはみな同じ。
       科学的に考えられた動く絵-1

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●「フェナキストスコープ」

 
人ははじめに、手で書いた動かない絵を「マジックランタン」(幻灯機)を使って「投影」することを知りました。そしてそれと並行するように、動かない絵を動いているように見せることを考えました。ここまでは裏で人が演じる魔法の仕掛けでした。
  次はいよいよ、絵を実際に動かすという段階です。このあたりからみなさんにもおなじみの図柄が登場し始めます。科学の匂いもし始めます。それらは
単純なオモチャのようなものから始まったのでした。


●パラパラ漫画を最初に遊んだのは誰でしょう
 子供の頃、誰もが経験するパラパラ漫画。教科書の隅に1ページごとに少しずつちがう絵を書いて、パラパラめくると動いて見えるというあの遊びは、1760年(宝暦10年)に画家のロウテンブルクという人が考案したもので、「フリップブック」と呼ばれて動画史上に登場しています。
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●左/「フィロスコープ」と称するいわゆるフリップブック(パラパラ漫画)
●右/現代でもファンが多い「カレイドスコープ」(万華鏡)

  また、縁日などで売られていた万華鏡。あれは絵ではありませんが、筒を回転させて、微妙に変化する形と色合いを楽しむその玩具は「カレイドスコープ」と呼ばれ
、1816年(文化13年)に発明されたものだそうです。これらは子供の時代に接する初めての視覚マジックといっていいでしょう。
 ちなみにこの「スコープ」、今後の展開でよく聞くことになりますが、語源はギリシャ語で「見ること」を意味する言葉だそうです。

 このように18世紀の終わりから19世紀の初めにかけては、「マジック・ランタン」を使って絵を「投影」する技術が進む一方で、人の視覚を科学的にとらえて、特殊な現象や原理を動画に結びつける試みが進められていました。はじめは実験段階の域を出なくて、せいぜいおもちゃとして楽しまれていたようです。

 動画の根底にあるのは「仮現運動」。これまでは「残像現象」という認識でしたが、最近ではそうではなく、連続する静止画のズレを動きとして脳が錯覚する「仮現運動」と解釈されるようになったということについては前にお話しました。その中で特に映画の誕生に結びつく要素を備えていた代表的なものを、発明された年代を追って見てみることにしましょう。


●「ソーマトロープ」
 発明年度は1823,1825,1826年と諸説あり
 これも何かで見たことがあるでしょう。紙で作った小さい円盤の表にカラの鳥かごの絵、裏に小鳥が書いてあって、円盤の両側に通した糸をよじると円盤が回転し、かごの中に小鳥が入っているように見えるものです。
 これは
1823(文政6)年頃、フランス人のパリが(分かりやすい)ロンドンで医師をしていて気がついて(え、パリがロンドンで? ややこしい)「ソーマトロープ」と名づけたので記録に残ることになりました。

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●上/「ソーマトロープ」の表と裏  下/遊び方

 ところが同じ頃、この現象を英国学士院会員のハーシェル卿も気づきました。テーブルの上でコインを回転させていたら、裏と表のデザインが重なって見えたのでした。その話を知人に話すと、知人から友人のフィトンに伝わりました。そこでフィトンが試しに作ったもの……それも形は円盤で、その両面には奇しくもパリが考案したものと同じ、鳥かごと鳥の絵が描かれていたのでした。
 同じ英国で2人が同じアイディアを思いついた訳ですが、「ソーマトロープ」の発明者としては、ネーミングを決めていたパリの方が良く知られているようです。


●「ファラデーの輪」
 1830年(天保元年)
  1830年のこと、イギリス人マイケル・ファラデーは、馬車の車輪があるスピード以上になると逆転して見えることに気づきました。そこで彼は、等間隔に切込みを入れた円盤を回転させ、ある回転スピードで一定を保つと、それが止まって見えるということを証明しました。これは「ファラデーの輪」と呼ばれています。

IMGP6991.JPG●「ファラデーの輪」


●「フェナキストスコープ」「ストロボスコープ」
1832と1835年説
 「ファラデーの輪」の原理をすでに知っていて、「ならば、円盤に等間隔に少しずつ動作を変化させた絵を並べて一定の回転スピードを保てば、絵が動いて見えるのではないか」と考えた人がおりました。「フェナキストスコープ(フェナキスティスコープ)」はベルギーのジョセフ・プラトー博士によって。「ストロボスコープ」はオーストリアはウィーンのジモン・シュタンパー博士によって考案されたものですが、このふたつも同じ発想で同時期に、けれども違う国で考案されたのでした。

ジョセフ・ブラトー.jpg●ジョセフ・ブラト
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●「フェナキストスコープ」絵の円盤は各種用意され、取り換えて楽しむことができる。

 これらは玩具として売られたのですが、動画が描かれた円盤数枚と、円盤を取り付けて回転させる取っ手がセットになっています。つまり取っ手がハードで、円盤がソフトという訳です。
 円盤のへりにはスリット(隙間)が開けられていて、スリット1つについて1枚の絵が対応します。円盤1枚には10点から20点の連続絵が描かれていて、絵の数の多い方が当然細かい動きが付けられます。ただし円盤ですから、絵の動きはエンドレスで繰り返されるだけです。そのため、飽きられないようにいろいろの絵が別売で用意されていました。現在のソフトの売り方と同じです。

 なお、
この円盤をそのまま回転させても描かれている絵は流れるだけで、動く絵としては見えません。スリットから覗いて初めて1枚1枚の絵が一瞬止まって見え、その連続が動きとして認知されるのです。

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●「フェナキストスコープ」の楽しみ方 再現映像20秒 無音

 この方式では、鏡に円盤を映して回転させ、それをスリットを通して覗くことで、動く絵を見ることができます。つまり「フェナキストスコープ」を楽しむには、いちいち鏡の前に立たなくてはなりませんでした。
 そこで1850年頃、オーストリアの砲術家フランツ・フォン・ウヒャチウスによる
改良型ともいうべき「ヘリオシネグラフ」が登場します。
 これは、スリットだけの円盤と動画の円盤の2枚が相対するように取っ手に取り付け、2枚の円盤を逆回転させることによって動く絵を見ることができるのです。


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●「ヘリオシネグラフ」    同梱の動画ソフト ソフトの別売もあり

 「ソーマトロープ」に始まるこれらの発明は、絵を動かすということにおいて、以前よりちょっぴり科学的になりました。けれども、単に「絵が動く」というだけのものです。それでも摩訶不思議な玩具として、子供に限らず、大人にも人気を呼んでいたようです。


●みんなが同じことを考えていた…ということは
  このように、絵を動かして見せるための研究開発は、当初ヨーロッパにおいて著しく、ほとんど同時点で似たような発明発見があちこちで生まれていることが分かります。
 拡大解釈になりますが、それはとりもなおさず
「人の考えることは古今東西みな同じ」なのではないか……これが、映画誕生に向けてのいろいろな発明発見を展望した際に私が強く感じたことなのです。

 それは、見えるものをそのままの状態で残しておきたい…、生きて動いているものをそのままの状態でいつまでも…という、人間なら誰でもが抱く本能ともいえる欲求、それを満たす手立てを人は昔から求め続けて来たのではないかということです。
 うがった見方をすれば、その普遍的な願いが「絵(写真)に留める」「それを動かす」「音をつける」「色を付ける」「本物と同じ臨場感を持たせる」という映画技術史の流れを作ったと言えるのではないかとさえ思うのです。

 さて、あちこちで似たような発明発見が行われていた……このことは映画が誕生する最後の最後まで付きまといます。動画の歴史を語るときに必ずといっていいほど真っ先に引き合いに出される「ソーマトロープ」にしてからがそうでした。そして最後は「誰が映画の発明者か」というところまで行くのですが、それはまだまだ、ずっと先のことになります。   (この項 つづく)







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コメント 6

yakko

こんばんは。
人の考えることってスゴイですね〜(@_@;) 人間は素晴らしい !!
by yakko (2015-03-04 19:49) 

路渡カッパ

こんばんは。
ややこしい(笑)ソーマトロープとか「子供の科学」などで読んだ記憶があります。
今のように情報が速くない時代に、同時期に同じ様なものが考え出されたと言うのは、
何か人類の生活文化、時代の欲求と科学の発達がリンクしているようで、面白いですね。
by 路渡カッパ (2015-03-04 22:35) 

sig

yakkoさん、こんばんは。
どこの国のひとも、みんな同じことを考えている・・・これは映画に限らずどんな発明にも言えることではないかと思います。そしてそれを一番最初に発表(偽十の場合は特許を取ることですが)したひとが発明者の栄冠を獲得できるのですよね。
by sig (2015-03-05 18:56) 

sig

路渡カッパさん、こんばんは。
これからの展開でも同様のことがあちこちで見られます。それは知性を持つ動物としての人間の、生まれついての特性ではないかと思います。
by sig (2015-03-05 18:59) 

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