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059 2倍払えば、カラーだよ! [技術と表現の進歩]

059 2倍払えば、カラーだよ!
    100年前、映画の色彩は?

1900ニューヨークシティホール.JPG
●時代背景 1900年代、ニューヨークに摩天楼林立

 このブログではこれまでに、1895年の映画誕生後、およそ10年ほどの経過を展望してきました。撮影機・映写機はガタつかない鮮明な画像を送るようになり、長尺のフィルムも生まれました。技術の進化は映画づくりを変えていきます。反対に、映画づくりからの要求で技術は更に進化していきます。このブログも中盤を過ぎたところで、技術と表現の変化についてまとめてみようと思います。

 
まずは「カラー」について。本格的なカラー映画の登場は1930年代ですから、ブログで展開しているこの時点から20年以上先まで、話が飛躍します。


●「カラー映画は料金2倍」という商売も
 
映画の技術的進化は、一般的に言えばまずサイレント映画に音声が付き、次にカラー映画へと発展しました。ところがそれはあくまでも実用化の順であり、実際は音声と色彩の研究は映画誕生の直後から並行して進められていたのでした。

 とはいえ、このブログの現段階ではまだ映画はサイレント。写真技術による本格的なカラー映画など先の先の話になりますが、これまでの記事で音声付きカラー映画実現に向けての努力の片鱗はあちこちに見受けられたと思います。

1985 serpent.jpg初期の手彩色映画

 例えば、1895年、リュミエール兄弟の「シネマトグラフ」を以て映画の発明とされる直前に、トーマス・アーマットがラフ&ギャモン商会を経てトーマス・エディスンの元に持ち込んだ「ファンタスコープ」。そこで試写された踊り子アナベルのダンスフィルムには、1コマ1コマ手彩色が施してありました。それは共同開発者チャールズ・ジェンキンスの夫人の手によるものでした。

ジェンキンスのファンタスコープ.JPG
●エジソンの映画発明の元となった「ファンタスコープ」

1866-1948 Tomas Armat.jpg1867-1934 Charles Francis Jenkins.jpg
●左/トーマス・アーマット 右/チャールズ・ジェンキンス

 手彩色によるカラー化はひとつの産業となり、彩色女工さんとも言うべき新しい職業を生みました。1897年、ジョルジュ・メリエスの世界初の撮影所には、大規模な「彩色アトリエ」が付属していました。

 
人件費がかかるこれらの映画は当然映画の製作費を押し上げましたから、製作会社では自信作にしか施しませんでした。そして「今度の作品はカラーだよ」とPRすれば、普通以上に観客動員が可能だったのです。

IMGP8071.JPG
●ジョルジュ・メリエス「スター・フィルム社」の彩色アトリエ

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●手彩色カラーとモノクロ、どっちがお好き?

 メリエスのスター・フィルム社でもやっていましたが、1903年に大好評を博したエディスン社の「大列車強盗」には、モノクロバージョンと彩色バージョンの2種のフィルムが用意されていました。

 当時はフィルムレンタル方式が始まったばかりで、欧米にでき始めた小規模な映画専門館ではフィルムそのものを購入して上映しているところもまだ多かったようですが、エディスン社ではいずれの場合もカラーはモノクロの2倍の料金で配給。映画館によっては彩色とモノクロバージョンを両方用意し、カラーを見たい観客は2倍の入場料を払うというシステムになっていました。

gunman.jpeg1903大列車強盗2.JPG
●手彩色カラーとモノクロ、どっちがお好き? ただしカラーは料金2倍だよ。


●染色ならカラー化は簡単。でも、それなりに
 映画がメジャーな娯楽になるにつれて観客も増えました。見世物小屋からニッケル・オデオンと呼ばれるいわゆる映画館へと上映環境が変わるにつれ、配給されるフィルムの本数が増え、次第に手工業形式の手彩色は間に合わなくなってきました。そこで考えられた方法は、フィルムそのものを染める染色法でした。

 それはシーン単位で行われました。例えば朝のシーン(場面)は薄いブルー、昼はイェロー、夜は濃いブルー。砂漠のシーンはブラウン、雨は薄いブルー、火災は赤。という具合です。
 また長編が作られるようになると、主人公の感情、たとえば恐怖はブルー、激情は赤、といった具合に色で染め分けて表現されるようになりました。染色法ではひとつのシーンが丸ごと同じカラーで色づけされるのです。

IMGP9679.JPG
         IMGP9678.JPG
               1928 新版大岡政談.JPG
●手彩色は大変だから、
 いっそ、十把一絡げで、場面ごとに色分けして、染めてしまえ!


 作業としては、まず現像後のモノクロフィルムをシーンごとに切り離し、同じ色彩単位で染めたものを、映画の流れに従ってつなぎ直す、という手間が掛けられたものです。当時はカラーフィルムは無い訳ですから、いろいろに染色したシーンがつながれた完成フィルムをそのままデュープ(複製)することはできません。
 配給するフィルムは、プリント1本ずつにこの作業が必要だった訳です。主人公の感情まで色彩で表現、という手法はフロイトあたりの学説を応用した画期的なものだったのかもしれませんが、画面全体が同じ色合いではカラーには見えず、それなりの効果しか得られませんでした。

 ただ、このあとのブログでご覧いただくことになりますが、1913年頃の映画では、染色されたフィルムに別の色彩を重ねる手法…例えば茶色で表現した昼の場面の中に火災の炎が赤く着色されている…というような手の込んだ色彩表現も見受けられるようになってきます。「少しでも実景に近づくように。できるだけ臨場感を」・・・。映画人のカラー化実現に向けた情熱が伝わってくる思いです。


●まず試されたのは印刷方式
 20世紀初頭、カラー化の研究がいちばん進んでいたのはゴーモン社でした。同社は1902年に型紙によるステンシル印刷を応用したフィルム彩色法を開発しました。道路上に描かれた矢印や輸出用木箱に押された印字を思い出していただくと分かりやすいのですが、図形や文字を切り抜いた型紙に染料やインクをのせてローラーで捺染する技法です。それをあの小さい映画フィルムの1コマ1コマに対して行うというのですから、すごいことです。


●パテ・フレール社のステンシルカラーによるキリスト受難劇 1907 無音

パテ社2.JPG

 これはひとつのシーン単位で色数だけ型紙が必要です。背景や人物の服装を1コマごとに鋭利なナイフで切り抜いた型紙をつくり、インクを刷り込んで仕上げるわけです。ゴーモン社では、ステンシル印刷法を発展させたものが1906年に開発され、「キネマカラー」の名称で1908年以降に使われましたが、印刷によるカラー化の表現には限度があり、十分な成果を上げることはできませんでした。
 このような経緯から、カラー映画は写真技術によるカラーフィルムの開発を待つことになりました。


●写真技術の進展で、光学的なカラーフィルムへ
 
今日のような写真方式によるカラー発色技術は1920年代に発達。1926年、アメリカのテクニカラー社はマゼンタとグリーンによる二原色カラー映画を開発します。この技術は早速ハリウッドの長編アクション映画に採用され、好評を博しました。


●二原色カラー映画 ダグラスの「海賊」1926
 ハリウッド全盛期の活劇俳優ダグラス・フェアバンクスの大活躍。

 

 その成功を確認すると、テクニカラー社は究極のカラー映画技術を開発すべく三原色によるカラー化の研究を進め、ついに写真技術と印刷方式を融合させたカラー映画を実現します。

 カラー印刷では撮影された写真を、シアン・マゼンタ・イエローの三原色に分解して3枚のネガを作ります。その濃淡に添って三色のインクが順に盛られて印刷され、最後にブラック(墨版)がのせられてカラー印刷が仕上がるわけですが、その仕組みをフィルムに応用したのが「テクニカラー」です。

テクニカラーカメラ 3.JPGテクニカラーカメラ3.JPG
●テクニカラーカメラ
 撮影時点で三原色に色分解するために、3本のネガフィルムを一度に撮影する機構。
 ブログではまだまだ先の話ですが、カラーの話のついでにご紹介。


 ただし「テクニカラー」は写真ですから印刷とは異なり、光の三原色である赤・青・緑の色分解となります。それを撮影と同時にカメラ内部で行うために、同時に3本のネガフィルムを撮影できる特殊なカメラが開発されました。撮影後3本のネガフィルムは、3色三層の感光ベースを持つフィルムに対応してそれぞれを発色させ、カラーのポジフィルムが完成しま。それは完璧なカラー映画の誕生でした。

 「テクニカラー」の最初の作品、それは1932年、ウォルト・ディズニーによる短編「花と木」でした。ちなみに劇映画の最初のカラー作品は1935年の「虚栄の市」。おなじみの「風と共に去りぬ」は太平洋戦争直前の1939年の製作です。つまり、本格的なカラー映画は第二次世界大戦以前に確立していたのでした。

sound-vd-technicolor-1933.jpeg
●上記テクニカラーによる、世界初のカラー映画「花と木」1932 のラストシーン。
  音声はオリジナルのトーキーサウンドです。
 ちなみに、トーキーが誕生したのは1927年からとされています。


1935 虚栄の市.JPG
●テクニカラー初の劇映画「虚栄の市」1935

※次回は、100年前の音声について。


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さる1号

二倍払えばカラー
でも手彩色の手間を考えたら二倍は安いかも^^;
by さる1号 (2015-06-16 06:58) 

sig

さる1号さん。こんにちは。
その通りですよね。現在に例えれば 2Dと3D版 のある大作のようなものでしょうか。その場合でも3Dは2倍では無いですものね。
それに、それは各自の好みで観るものですから「モノクロの方が好き」という人もいるわけで、それは今も昔も変わらないかもしれませんね。
by sig (2015-06-16 09:57) 

路渡カッパ

こんにちは。
手彩色は大変な手間だったでしょうね、今になって見れば味がありますけどね。
私が憶えているのは「総天然色」なんて宣伝文句。ワクワクしたものです。
ディズニーはカラー化に情熱を持っていたようですねTVでもカラー番組が早かった気がします。ワンダフルワールド オブ カラーなんて流れていましたものね♪
by 路渡カッパ (2015-06-16 12:23) 

sig

路渡カッパさん、こんにちは。
一こまずつの手彩色は工芸的で、きれいですよね。当時としては彩色女工さんは時代の花形職業で、苦労をいとわず張り切ってやっていたのではないでしょうか。
世界初といわれるカラー映画はディズニーの「花と木」で、劇映画よりも3年も早いのです。ディズニーは映画の技術的な面でも業界の最先端を走っていますが、それは創業以来のディズニースピリットなのでしょうね。
カッパさんは「総天然色」も「ワンダフルワールド オブ カラー」もご存じなんですね。いろいろ楽しいことが生まれて、いい時代でしたね。
by sig (2015-06-16 14:02) 

般若坊

RGB3本のフィルムを同時撮影して重ね合わせ、テクニカラーを創ったんですね。その発想に頭が下がります。貴重なカラー映画への到達ですね・・・ ^^
by 般若坊 (2015-06-17 09:34) 

sig

般若坊さん、こんにちは。
すばらしい発想ですよね。それにしても3本のフィルムをいっしょに撮影してカラー分解する機構を考えるなんて、フィルムを湯水のように使っていたハリウッドならではの発想だと思います。デジタル時代になって、過去の映画のアーカイヴをデジタルでと言われた時期がありましたが、現在では100年以上の実績を持つフィルムで保存する方が確かだと認識され、テクニカラーも大事な役を担っているようです。

by sig (2015-06-17 12:31) 

まこ

手彩色カラーの色合いと言うのは
独特の雰囲気があって、いいですねぇ~
絵具好きだから、女工さんになれたかも(∩_∩)
by まこ (2015-06-17 18:13) 

green_blue_sky

カラーにも歴史があるのですね。
小さいころはテレビも白黒だったし、最初のゴジラも白黒(^▽^;)
by green_blue_sky (2015-06-17 20:05) 

響

カラーってこういう事だったのですね。
感情を色で表現とは面白い。
by (2015-06-17 22:33) 

sig

まこさん、こんばんは。
一コマずつの彩色だと、上映すると色が踊って独特の味わいがありますよね。まこさんもタイムマシンで1900年に飛び、時代の最先端を行くカラーリング・テクニシャンとして、お仕事してみますか。笑
by sig (2015-06-20 00:34) 

sig

green_blue_skyさん、こんばんは。
映画は誕生した時から、サイレントでありながらライブの音が付き、手彩色ながらカラーだったということは、子のブログのテーマに関わるとても大事なことなんです。
確かに私たちはTVの発達に、映画と同じ発達を見ることができますね。
by sig (2015-06-20 00:38) 

sig

響さん、こんばんは。
この時代はフロイトが「無意識の意識」や「夢判断」など、人の潜在意識の研究成果を発表したりしていたり、色彩学の上でも色彩と感情といったものが語られていましたから、そんな影響もあるのではないでしょうか。
当時はフィルム感度の問題で夜景は撮れませんでしたが、日中撮影してブルーに着色すれば夜景の出来上がりですから、頭がいいですね。
by sig (2015-06-20 00:52) 

うさ

>世界初のカラー映画「花と木」
写真だって、30年くらい前のカラー写真だって色あせていたりするのに、80年以上も前のこのカラー映画がとても綺麗な色で残っていることにちょっと驚きました。まさに「完璧なカラー」ですね。
by うさ (2015-06-21 01:27) 

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