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017 行ったつもり、観たつもりの「パノラマ」と「立体写真」 [写真の発明]

017  映画以前の「疑似体験満喫装置」が、これ。
  「パノラマ」と「立体写真」

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●カティ・サーク 1969 学研の図鑑より

 前回は「映画誕生」の前提となる写真術の発明について概略を述べておきましたが、今回は写真に関連する「パノラマ」と「立体写真」について押さえておきたいと思います。
 
ご存じの通り両者は今日では、「パノラマ」は劇場の大スクリーンに。「立体写真」はCGによる3D映画に置き換わって進化していますが、それはどういったところから生まれたものなのでしょうか。

●「パノラマ」…その場に立ち合っているような臨場感
 「パノラマ」とは〈広い眺望〉という意味ですが、1785年にイギリスのロバート・パーカーがその原理を考え出しました。
 
パーカーは研究の末、1800年までにロンドンのレスター・スクエアに本格的なパノラマ専門劇場をオープンします。それはキャンバスを張った内壁が10,000フィートもある360度の円形シアターでした。

シアターは4階建てで、その中心には建物全体を支える太い柱があり、柱には各階の中空から上下を展望できるように、半分ほどのところまで手すり付きの床が張り出しています。入場者はキャンバスに描かれた大壁画を、各階を昇りながら、下りながら、あるいは周りながら眺めるという趣向です。


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●ロバート・パーカーのパノラマ館 
 各フロアから360度全円周に描かれた情景を上下から展望可能。 
 

最初の出し物は海洋王国イギリスが世界に誇る帆船の大艦隊でした。絵はもちろん動きませんが、照明と効果音が付けられました。

人々は360度の見た目いっぱいに海洋を埋め尽くす圧倒的な戦艦の姿にびっくり仰天。おまけに時間の進行につれて変化する朝から夜までの背景の色合い。圧巻は合戦です。艦砲のとどろきと赤い光が交差して艦砲射撃をほうふつさせる光の演出に観客は大感激、大感動。

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●パリのヴァリエテ座(左)とパノラマ館(右)

こうしてパノラマは一挙にブームを呼び、ヨーロッパ全土はもちろん、アメリカにも広がります。それぞれ大都会にはたいていパノラマ専門劇場が建つほどになりますが、ほとんどがスペクタクルを中心とする戦争の名場面で構成されていたので、やがてネタがなくなってしまうと、1830年頃にはパノラマ館の人気は下火になってしまいました。

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●イメージ 南北戦争、セブン・パインズの戦い                           

 ところが、アメリカは違いました。1865年に終結した南北戦争の名場面がパノラマでよみがえったのです。フランスで活躍していたパノラマ画家たちは、アメリカを目指します。こうして1880年代後半のアメリカでは、ゲティスバーグの戦い、アトランタの戦い、シャイロゥの戦いといった名場面が、ボストンやシカゴのパノラマ劇場で大人気を博し、パノラマブームが巻き起こるのです。

これは、過去に起こった現実の情景の中に等身大で自分も立ち合ってみたい…タイムスリップ…という欲求の代替行為に他なりません。

●「立体写真」…立体を立体のまま撮影できる道具がほしい。
「立体物をそのまま手にとれるような感じに描けないものだろうか」…人の両眼による
立体視の原理を応用したこの試みは、写真が生まれる前にすでに、鏡を利用して立体画を書く器具と技法を生み出しています。

立体図法.jpg


立体的な絵を画きたいと考えたくらいですから、写真が登場すれば写真の立体化が考えられるのは当然です。
「立体写真」の装置が登場したのは1858年。考案者はイギリスの光学技師ジョン・B・ダンサーでした。まだ湿版写真の時代に、すでに「待ってました!」とばかりに立体写真が生まれているのです。

それは、人の両眼に当たる2個のレンズを備えたカメラで撮影し、右目と左目用に撮り分けられた2枚の写真を現像後、レンズの付いた双眼写真鏡、つまり「ステレオスコープ」で覗いて立体視を得るものでした。(その後いろいろな方式が誕生)

初めはやはりお金持ちの道楽。「立体で観るなら、絶対これ」とばかりにご多分に漏れず密かに紳士の間で楽しまれたのはヌード写真でした。ここでは、こういったニーズが新しい技術開発の後押しをしているという風に受け取ることにしましょう。

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●1864年、州立公園となったヨセミテ
のハーフドーム


 当時、欧米のセレブたちが求めた写真は、近隣諸国の名所旧跡を写した風景写真でした。日本でいえば海外旅行写真です。この当時の旅行は汽車や汽船によるものでしたが、いかにセブとは言え簡単に出かけるわけにはいきません。そこで臨場感100パーセントの「行った気になれる立体写真」、という訳です。

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●イメージ

こうして「ステレオスコープ」は、ビクトリア王朝におけるヨーロッパの富裕層のステータスとして豪邸に飾られ、何十何百とコレクションされた異国の立体写真が来客に披露されたのでした。

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●ロンドン万国博で発表されたステレオスコープが一大ブームを引き起こした。1851

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●家族揃っての団らん写真やお祝いの写真として、立体写真がもてはやされた。

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●19世紀のステレオスコープ        ●これは20世紀初頭のステレオビューワー

●国情・世情が写真の需要を後押し
 19世紀後半のヨーロッパはイギリス、フランス、ドイツなどの列強諸国が覇権を巡って渡り合い、自らを先進国、文明人と呼んで未開の地を我が物にするための植民地開拓が進んでいました。その先ぶれは、まだほとんど明らかにされていない未知の大陸を詳しく調べようとする探検に委ねられました。

 例えばスコットランドの探検家デイヴィッド・リヴィングストンは、宣教師としての立場で1840年から1871年までの間に3回ものアフリカ探検を実施。ザンベジ川で発見した広大な瀑布に当時の英国女王の名を冠してヴィクトリア滝と名付けたり、奴隷商人による虐殺現場を目撃したりして、結果的にアフリカ大陸横断に成功しました。

これはほんの一例で、この他、1862年にはイギリスのスチュアート、オーストラリア縦
断に成功。1865年、イギリスのウィンパー、マッターホルン初登頂と続きます。

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●パリ
で公開された40人乗り係留気球 1878

 1869年は特に、ヨーロッパとアジアを結ぶ海路に大きな進展がありました。イギリスで紅茶を運ぶティー・クリッパーとして建造された高速帆船「カティサーク」は、中国大陸との距離を縮めました。また同年11月には、地中海と航海をつなぐスエズ運河が開通。ヨーロッパにとってはアフリカ大陸を回らなければ届かなかったアジアとの距離が格段に近くなったのです。「写真」が活躍する舞台は揃っていたのでした。

 これらの心躍る情報は、1868年にロール紙の使用で印刷の高速化を実現した輪転印刷機がロンドンのタイムズ社に登場すると、未知の世界へのあこがれに一層拍車がかかります。

「立体写真」は新聞が伝える世界のニュースと連動するように、パリ、ロンドン、ニューヨークの街頭風景はもちろん、地中海の遺跡群、アルジェリアのカスバ、モロッコのバザール、エジプトのピラミッド、はては万里の長城まで、格好の被写体として写し取り、人々に楽しまれています。

P1050405.JPG ステレオカメラ.jpg
●ガソリンエンジンが登場する前の電動軽三輪車1888

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●さあ、まだ見ぬ国へ。列車の旅、船の旅をいざなう観光ポスター。


●立体写真から〈動く写真〉への渇望へ
 
「立体写真」は奥行きのある現実の空間を、一度、一対の2枚の平面写真に変換し、それを更に「ステレオスコープ」で再変換して立体感を得るものです。このような面倒をしてまで、人はなぜ立体写真を求めたのでしょうか。

そこには、より現実に近い再現を…という強い欲求が感じられます。しかし、「立体写真」は必ずしも現実を再現してはくれませんでした。決定的な〈動き〉が備わっていないからです。そしてその欲求が〈動く写真〉に向けられて行ったことは、想像に難くありません。

 つまり、人々が「映画」に求めてきたことは今に始まったことじゃない。それどころか、写真が誕生する前からの願望であり、「写真」自体、そうした要求の中から誕生してきたもの、と言えるでしょう。
 
〈動く写真〉の研究者たちも、「写真を動かしたい」という次の段階の要求に応えるべく、ヨーロッパで、アメリカで、暗中模索を続けているのでした。


※立体写真関係の図版は伊藤俊治著「ジオラマ論」より引用させて頂きました。
※ポスター2点は鹿島茂著「パリ・世紀末パノラマ館」より引用させていただきました。
※お詫び
 HTMLを不勉強なため、文字面がきれいに揃わなかったり、過去記事には本文の文字の大きさが異なったりする不具合がありますので、どうぞご容赦ください。




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lequiche

パノラマという言葉から思い出すのは江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」だったりしますが、私にはパノラマという概念がよくわかりませんでした。静止している絵だけで感動できるものなのかという疑問です。でも、つまり音とか照明などを加えた見せ方なのでしょうね。
日本にもかつてパノラマ館みたいなのがあったというエッセイを先日読みましたが、やはり最初は客が来るのですが、そのうちネタ切れになって下火になったとのことでした。

昔、遊園地に「びっくりハウス」というようなネーミングの遊戯施設がありましたが、まだそれに乗るのには私は幼くて、1度だけ乗せてもらったような記憶があるのですが、乗ったという記憶を自分で勝手に作っていて実際には乗っていないのかもしれません。ああいうのも一種の錯視を利用して恐怖感を与える効果を狙ったのではないかと思います。

先日の記事にゾートロープの解説がありましたが、私はジブリ美術館のゾートロープにかなり感激しましたので、これも映画の発達過程のひとつなのだ、とあらためて納得した次第です。いかに錯視を利用するかというのが動画を作る基本なのでしょうが、それはたとえばどうやったら空を飛べるか、というような命題と同じ動機なのだと思ってよいのでしょうか。
by lequiche (2015-03-18 01:41) 

sig

こんばんは。遅くまでご苦労様です。お互いに。笑
パノラマについての解説は、ここでは控えめにしてあります。かなり先になりますが、1900年のパリ万博の項で、もっと詳しくご紹介する予定ですが、要素的には振動、風、霧などの効果も重要ですね。

「びっくりハウス」は大好きで、子供をダシにして自分で楽しんでいました。あれは部屋の壁面全体が回転するのですが、実は座っているシートはブランコのように揺れているだけなんですよね。それに映像が加わると錯視効果は大きくなり、どこかのパークの呼び物レベルになると思います。

ジブリ美術館はいまだに行ってないのですが、映画誕生に関わる展示があるのですね。①空を飛ぶ方法と②絵や写真を動かす方法を考える動機はどちらも、不可能を可能にする、夢を実現したい、という点においては同じではないでしょうか。後で書くことになりますが、飛ぶ方法を研究する手段として動く写真の利用が考えられているのも面白いですね。

by sig (2015-03-18 02:13) 

風来鶏

私が唯一と持っているフィルムのコンパクトカメラ「Nikon ミニ AF600 QD」は、背面のレバーで"パノラマ撮影(フィルムの上下をカットする)"が出来るカメラです(^_^)v
by 風来鶏 (2015-03-18 14:25) 

路渡カッパ

こんにちは。
人はよりリアルにって欲求が強いのでしょうか、そう言うものを見ると驚き、感動したりしますね。
今でも3DアニメやPCゲームのリアルさに驚きますもんね。
未来は匂いや感触まで・・・実際に触っている感覚が得られる写真が実現するのも夢じゃ無さそうですね。
その際はやはり、紳士方の密かな楽しみ・・・からでしょうかね。(^_^ゞ
by 路渡カッパ (2015-03-18 15:33) 

sig

風来鳥さん、こんにちは。
Nikonもそんな遊び心のあるカメラを出していたんですね。風来鳥さんにはかなり魅力だったんでしょうね。私も時々パノラマ写真で遊んでいます。ただ、横長すぎてブログには適しませんね。笑
by sig (2015-03-18 17:36) 

sig

路渡カッパさん、こんにちは。
最近のゲームの3 Dはすごいですね。店頭で観ているだけですが、すばらしいと思います。
「未来は匂いや感触まで」、鋭いですね。先取りされちゃった。それがこのブログの到達点です。でも「紳士方の密かな楽しみ」の実現は100年早いのでは。笑
by sig (2015-03-18 17:41) 

般若坊

こんにちは。映画はセットやトリックで実在感が得られる仕掛けですね!
数々の名画により、その実力の程は認めるところです。
もう40年前になりますが、フロリダのディズニーワールドの中にある、エピコットセンターで3D画像や、匂いの出る映画を体験しました。
3Dは例の通リメガネをかける方式で、石が飛んでくるのですが、ぶつけられそうな実在感がありました。思わず手を伸ばして、石をまさぐってみましたよ!
またオレンジ畑の場面では、会場がオレンジの香りで満たされました。発想は既にチャレンジされていたんですね!
by 般若坊 (2015-03-19 14:01) 

sig

般若坊さん、こんにちは。
すごいですね。ディズニー・ワールドのオープン時に訪問されたのですね。すばらしい。私もEPCOTがオープンする2年前に、ディズニー社の広いプレゼンルームに展示された模型で、いろいろな企業や各国のテーマ館で提供される新しい趣向のデモを見せて頂きました。闇の中を走るジェットコースター「スペース・マウンテン」のレールが地上何階・地下何階にも及んでいるとか、ドロドロに溶けた溶岩に触ったら、冷たいジェルだったとか、とにかくイマジニアリングと呼ぶディズニー社の創造力と表現力は素晴らしいですね。
ところが、映画前史を見ていると,アィディアそのものはすでに19世紀にあるのですが、技術が追い付いていなかったのだ、ということを強く感じます。あるいは、新しく生まれた技術レベルで順次塗り替えられて今日に至っている、という感じです。先端技術はそのように、人間の夢を実現するために生かされていくように思います。そのあたりがちょうど次の記事になるのですが、私は般若坊さんもお感じになっている通り、ディズニーの技術は私たちに100年先を体験させてくれていると思っています。
by sig (2015-03-19 17:10) 

green_blue_sky

いろいろな工夫をすることによって進歩をしますね。
カティ・サーク・・・お酒の名前を思い出してしまう^_^;
新宿、ゴジラは完成、4月末ごろにホテルなどがオープンします~
by green_blue_sky (2015-03-19 22:04) 

sig

green_blue_skyさん、こんばんは。
カティ・サークはやはりお酒ですよね。昔、アメリカのジェット機で、ティー・クリッパーにちなんだクリッパー・クラスという席がありました。PANNAMだったかも。ゴジラビルではIMAXが観られるので、楽しみです。
by sig (2015-03-20 00:57) 

YUTAじい

おはようございます。
帆船2隻目ですが・・・時間掛かりますが嵌りそうで怖いです。
何時もありがとうございます。
by YUTAじい (2015-03-20 08:31) 

sig

YUTAじいさん、こんにちは。
私は器用さと根気が無いので帆船模型などとても取り組めませんので、せいぜいぶろぐにイラストを張り付けるだけです。笑
YUTAさんの帆船の完成が楽しみです。
by sig (2015-03-20 15:27) 

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