016 歳をとらない〈分身〉とは? [写真の発明]
016 元祖「プリクラ」登場!
「湿板写真」から「乾板写真」へ。
●19世紀イメージ
前回は「映画」の技術開発に不可欠な写真技術に触れておくことにし、ダゲールによる「ダゲレオタイプ」(銀板写真)と、それに次ぐタルボットの「ネガ・ポジ法」について語りました。今回は更なる実用化に向けて開発された「湿板写真」の登場についてお話ししておきましょう。
●湿っていないとダメな「湿板写真」
1841年にイギリスのタルボットが編み出した「ネガ・ポジ法」は、ダゲールの「ダゲレオタイプ」のもつ、複製が作れないという最大の問題点を解消し、被写体の〈分身〉である肖像写真のコピーを可能にしました。これにより、被写体である人物は、その写真が傷んでも焼き直すことにより、いつまでも撮影時の若さを保つことができるようになりました。人の誰もが願う「不老不死」…その〈不老不死の分身〉がある意味で約束された訳です。
●外光を採りいれた「ダゲレオタイプ」の写真スタジオ 左壁際に立ててあるのは頭押さえのポール
「ネガ・ポジ法」による写真法には、その後、露出や現像時間短縮のために、紙からガラス板への転換や薬液の調剤などに改良が加えられた結果、1851年、イギリス人彫刻家フレデリック・アーチャーによって新しい技法が誕生します。
●フレデリック・アーチャー
それは、コロジオンという液体と銀の化合物を塗ったガラス板に露光させるというもので、露光時間を1~2分という短時間で実現できるものでした。けれどもこの技法は、コロジオンが湿っている間に撮影と現像を済まさなければならないというもので、「湿板写真」と呼ばれました。
カメラマンは撮影の直前にガラス板にコロジオンを塗り、1~2分間ハラハラしながらレンズに被せてあるシャッター代わりのふたを開けて撮影し、撮影後は大急ぎで現像液へ、という大忙しの手順なのでした。
●写真スタジオの登場
それでも「湿板写真」は従来に比べれば画期的な大変革でした。「湿板写真」が発表されると直ちに、欧米を中心とする大都市のあちこちに写真スタジオが登場するようになりますが、それは、撮影・現像という複雑な作業をコロジオンが湿っている間にやらなければならないという「湿板写真」の特性と無縁ではありません。
●1850年代には欧米において名刺写真が流行。 ●リンカーンの名刺写真
●多眼式写真機はポートレート写真を身近なものにした。
スタジオ撮影のニーズは圧倒的に肖像写真でした。そのうちにいちいち焼き増しする必要のない複数レンズを備えたカメラも登場し、一度に4枚とか8枚の写真撮影もできるようになると、肖像写真は更に手軽なものとなり、「名刺写真」として自己紹介の際などに利用することがブームになったりしました。
複眼レンズカメラはその後さらにエスカレートし、9枚、12枚と増え、25枚というものまで出現しました。こうなると大きさはほぼ切手大。人々は好んでこの切手サイズの自分の肖像写真を手に入れると、ブローチやペンダントにはめ込んだり、手紙に張り付けたりして楽しみました。20世紀末に一世を風靡した「プリクラ」の起源はこんなところにあったともいえるでしょう。
●「湿板写真」の時代はおよそ20年間
複数レンズのカメラは間もなく立体写真の撮影に転化されます。立体写真については稿を改めたいと思いますが、すべてはかなり写真の実用化が進んできたことの証明です。
一方で複数レンズのカメラは、〈動く写真〉の研究者にもある種の啓示を与えます。このことについては、追って〈動く写真〉の項目でお話したいと思います。
このように「湿板写真」の登場はいろいろな方面に明るい波紋を呼び起こします。とは言え、湿っているうちに、という難点が解消されるわけではありません。ただ難点というのは現在の見方であって、当時の写真家たちは、大層便利になったものだと喜んでいたはずです。
そうは言っても屋外での撮影ともなるとその装備は大変なもので、ただでさえかさばる撮影機材の他に、暗室すらも運ばなければなりませんでした。
1861年にアメリカで南北戦争が始まると、写真家ブラディたちは写真記録班として従軍。戦争終結の1865年までに数1000枚の写真を撮影したということですが、彼らは撮影機材と移動式暗室を馬に曳かせて飛び交う銃弾の下をかいくぐり、決死の撮影を行ったのでした。
●南北戦争でブラディが撮影した写真「死んだ狙撃兵」1863
●写真を使った玩具の登場
ところで「湿板写真」が登場したことは、当然のことながら、それまでの〈動く絵〉の研究を〈動く写真〉へと向かわせました。「絵」よりもリアリティのある「写真」を使おう、ということで、動画研究の流れが大きく転回します。
この段階で現れた発明が、以前「013」の記事の最後に前出しした「キネマトスコープ 1861」と「ファスマトロープ 1870」です。それぞれ「ゾートロープ」と「フェナキストスコープ」の絵の部分を写真に代えた玩具です。
また、「ヘリオシネグラフ 1850頃」を開発したウヒャチウスも、マジックランタンを結合させた〈動く写真〉の投影装置を発表します。そのどれもが円盤に張り付けた写真ですからエンドレス。物語性はありません。とにかく最初の〈動く写真)はそのような形で映画前史に登場してきます。
●ゾートロープ ●フェナキストスコープ ●ヘリオシネグラフ
写真が誕生すると〈動く絵〉の部分が写真に置き換えられ〈動く写真〉へと進化した。
●今日に通じる「乾板写真」、いよいよ登場
ところでコロジオン湿板写真術は、露光の失敗や現像処理の手違いなどのトラブルもあり、あまりにも専門的過ぎました。なんとか乾燥状態で撮影・現像を行えないものか。その願いは、1871年、イギリスの医師リチャード・マドックスによって叶えられます。
●リチャード・マドックス
●乾板による肖像写真 こちらは記事に花を添えるためのイメージイラスト
「乾板写真」は、臭化カリウムと硝酸銀の溶液をゼラチンに加えた感光乳剤をガラス板に塗ったもので、この方式によると薬剤が乾いた状態で感光させることができるようになったのです。「湿板写真」と比べて大掛かりな設備と手間がかからなくなったばかりでなく、保存が利くため、工場で生産できるようになりました。それはコストの低下を意味します。また、ガラス乾板の露光感度は格段に高くなり、小型のカメラも登場するようになります。こうして「乾板写真」は瞬く間に世界に広がりますが、あくまでもそれは報道や上流社会の特権階級が楽しむことに変わりはありませんでした。
なお、日本に写真技術が伝わったのは1843年(天保14)と言いますから、「銀板写真」が発明されてわずか4年後のことでした。オランダ船によって長崎に持ち込まれた機材は1848年、薩摩藩主島津斉彬公の手に渡りましたが、薬剤の調合が難しく、撮影に成功したのは1857年9月と言われています。
それ以降、日本でも写真館が開業されるようになりますが、大抵は外国人でした。長崎化学伝習所で薬学研究の立場から写真術を研究していた上野彦馬が外国人から学んだのは「湿板写真」でした。上野は1862年(文久2)、長崎で上野撮影局を開設すると、そこに訪れたのが坂本竜馬でした。誰でも知っているあの有名な写真はそこで撮影されたものですが、竜馬の〈分身〉は150年以上経過した今日でも立派に生き続けているということなのです。
さて、映画誕生に欠かせない写真技術について簡単に説明してきましたが、〈動く写真〉の話に戻す前に、もう一つ頭に入れておきたいテーマがあります。それは「立体写真とパノラマ」です。次回はそのあたりを。
若いままでいたい!という人間の欲望は、ずっと変わらないのですね。
by 森田惠子 (2015-03-16 10:49)
森田惠子さん、こんばんは。
はい、多分・・・そう思いますが・・・(歯切れが悪い)
by sig (2015-03-16 23:10)
お早うございます。
写真は良いですね〜
こんな時代もあったねぇと時々懐かしく思い出しますσ(^◇^;)
by yakko (2015-03-17 08:44)
yakkoさん、こんにちは。
私は大勢の兄弟の末だったせいか、小学校入学前の写真は3枚しかないのですよ。そして小学時代はクラスの集合写真程度。やはりさびしいですよね。
by sig (2015-03-19 17:23)
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