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077 10年残った、夢の跡  「イントレランス」② [大作時代到来]

077 10年残った、夢の跡
    
D・W・グリフィス「イントレランス」②

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●コンスタンス・タルマッジ

前回からの続きです。

●豪華絢爛。本格的ピクチャー・パレス時代到来
 「イントレランス」D・W・グリフィスお抱えのリリアン・ギッシュ、メイ・マーシュ、フレッド・ターナー、リリアン・ラングドン、コンスタンス・タルマッジ、そして2年後の1918年にターザン映画第1作「猿人ターザン」で売り出すことになるエルモ・リンカンなど、売れっ子俳優によるオールスターキャストで製作費は190万ドルという超豪華大作でした。
 
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●「イントレランス」 ドイツのポスター           

P1060371.JPG エルモ・リンカン.JPG
●ターザン映画第一作「猿人ターザン」1918 と主役のエルモ・リンカン
  
 製作に丸2年を擁し、撮影されたフィルムは10万メートル。グリフィスははじめ8時間の映画にする構想でしたが、さすがに会社や映画館側は反対。結局半分以下の3時間半に短縮されて、1916年9月、前作「国民の創生」を初公開したと同じニューヨーク/ブロードウェイの「リバティ劇場」で公開されました。

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IMGP8874.JPG1910年代半ばの映画館.jpg
●1915年以降1920年代 ピクチャー・パレスのイメージ

 残念ながら手元に「リバティ劇場」のデータがないのですが、大作映画時代を背景に出現した当時の映画館とは、どんなものだったのでしょうか。それはピクチャー・パレスの呼び名通り、豪華絢爛の映画宮殿。その先鞭をつけたのは、ミッチェル・マークでした。

 
1914年4月、ニューヨーク/ブロードウェイにオープンした「ストランド劇場」は、円形の2階建て、約3,000席。金ぴかのデコレーション、きらめくシャンデリアの下、ガイドに導かれふかふか絨毯を踏んで座席に座ると、ステージ手前に30人程のオーケストラボックスと巨大なワーリッツァー・オルガン。見上げると両袖には賓客の座るバルコニー席があります。入場料は25セントとニッケル・オデオンの5倍もしますが、そこは非日常の世界、まさに<夢の宮殿>の内部です。

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●映画館王「ロキシー」とワーリッツァー・オルガン

 ついでながら映画館の歴史上のヒーローは、“ロキシー”ことサミュエル・L・ロサフェルです。彼は1913年までに「アルハンブラ劇場」、「リージェント劇場」といった著名な劇場を建て直し、1914年から1920年にかけて上記「ストランド劇場」も含めて「リアルト」、「リヴォリ」、「キャピタル」といった大劇場を吸収し、ついには自分の名を冠した「ロキシー劇場」を造り、劇場王の名をほしいままにします。「ロキシー劇場」は大理石を使ったロココ調のデザイン、客席は6,200、オーケストラは110人編成というけた外れのものでした。

 このように大規模なピクチャー・パレスの建設は、イタリアの歴史劇の成功やグリフィスの大作によって加速されるのですが、このようにして映画は芸術性と娯楽性を適度に融合させて、
1920年代には全米で第4位の産業にのし上がるのです。
 1895年に誕生した「映画」。そのわずか20年後のこの姿を、誰が予想できたでしょうか。


●商業映画はやっぱり、内容よりも興行収入

 それはともかくD・W・グリフィスの偉大なる実験作「イントレランス」は、このような大劇場で公開されました。「古代・バビロ二ア編」ではオーケストラによるサンサーンス作曲のオペラ「サムソンとデリラ」の演奏が観客の心を揺さぶりました
前回の動画参照)。
 ところが興行的には前作の「国民の創生」を越えるどころか、大変な赤字を出してしまったのです。

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●D・W・グリフィス           ●「イントレランス」バビロンの一場面

 その理由として、元々8時間の内容を半分以下に切り詰めたために、すばやい場面転換に慣れていない観客が戸惑ってしまったこと。4つの物語が時代を越えて交錯するという構成が斬新過ぎて、観客が理解しにくい作品だったこと。キリスト受難のエピソード以外はアメリカ人になじみの薄い国の話であったこと。主な輸出先のヨーロッパは大戦中で映画どころではなかったこと。更に、戦争を<不寛容>のひとつとしたことが、第一次大戦に参戦直前の国民意識を逆なでしたこと。などが挙げられています。

 「イントレランス」の興行的敗北は、いかに芸術的色彩が濃くても、商業映画は作品内容よりも興行収入によって評価されるものであることを明白にしました。資本主義の国アメリカは、映画製作に対しても銀行や民間企業から投資の形で資金供給を受ける訳ですから、それ以上の利益を確保できなかったトライアングル社は致命的な打撃を受け、グリフィス自身も巨額の負債を負うことになりました。

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●「イントレランス」、バビロンの城砦の巨大なオープンセット

 こうして幻の栄華を誇ったバビロニア宮殿の大オープンセットは取り壊す費用もままならず、草むしたままサンセット・ブールバードの土ぼこりにまみれて10年以上も放置されることになるのです。


●エディスン・トラスト(
MPPC)の瓦解
 いずれにしても1910年から1920年にかけて、インディペンデント(独立経営映画会社)の1時間を越える長編映画が主力になると、全米に客席1,000を越える本格的な映画館が急激に増加しました。豪華に飾られたピクチャー・パレスの時代が到来したのです。
 反対に、エディスン・トラストと呼ばれる映画特許会社(MPPC)系列で製作される短編映画の上映館ニッケル・オデオンは目に見えて廃れていきました。

エジソン.jpeg●映画特許会社の総帥 トーマス・A・エディスン

 弱り目に祟り目のエディスン・トラストの衰退に追い討ちをかけたのが、第一次世界大戦を挟んで続いたシャーマン・トラスト禁止法に基づく反トラスト訴訟の結果でした。映画特許会社(MPPC)は1911年に反トラスト法違反の告発を受けていたのですが、1917年にエディスン・トラストは違法であるという判決が降りたのです。けれどもそのころまでにはすでにほとんどの加盟会社が手を引いて意味を成さなくなっていたのです。

 短編に限定して長編を作らせなかったエディスン・トラストは、そのカセを嫌った加盟会社が別会社で長編を作ることを促進させ、それがエディスン・トラストを追い詰めるという自己矛盾をはらんでいたのでした。

 こうして映画特許会社(
MPPC)は瓦解。最初は特許違反を訴える側で10年。後半は訴えられた側で7年。ここに17年にも及ぶエディスン社の特許戦争はようやく収束したのでした。最後まで残っていたのはバイタグラフ社1社でしたが、それも1912年に設立された「ワーナー・ブラザース」に吸収されてしまいます。 

つづく



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コメント 7

響

華やかな映画の裏でおこる
ビジネス戦争ですね。
by (2015-07-22 05:26) 

さる1号

芸術性云々よりもビジネス的に成功か否かが一番問われる訳ですね
それにしても・・・8時間上映の映画ってメチャ疲れそう
観る側の事を考えていない気が^^;
短縮せず8時間のままで上映しても成功したかは疑問だなーー;)
by さる1号 (2015-07-22 07:03) 

sig

響さん、こんにちは。
どの世界でもある戦争でしょうが、映画の世界はショービジネスという側面があり、スキャンダラスな出来事も多いようですね。
それを利用して相手を叩いたり、自社の宣伝に利用してしまうようなところが芸能界の見事なところですよね。
by sig (2015-07-22 08:57) 

sig

さる1号さん、こんにちは。
それまでニッケル・オデオンで上映されていた映画は長くても20分程度という制限があったため、初期のチャップリン映画のような娯楽に徹したものが多かったのです。

けれども、映画は単なる娯楽よりももっと質の高い芸術なんだと示したい人たちが長編を目指した傾向があります。つまり、映画は娯楽か芸術か、ということは、長編が作られるようになってからのことなんですね。

グリフィスの「イントレランス」はまさしくそういった背景のもとに作られたわけで、その意味では観客不在。会社側の判断が正しい、と言えるかもしれません。

けれども、公開後は劇場ガラ空きということではなく、あくまでも掛けた経費をカバーできなかった。それほど製作費が大きかったということのようです。

今でも芸術作品、社会派作品を標榜して、8時間、6時間という作品が公開されたりしますが、それを受容できる層も確実に存在するわけですから、それも あり でしょう。

それにしても私の3時間半上映ではつらい思いを強いてしまいました。笑  自分も3時間が限界です。
けれども、このブログの後が、あのビデオに引き継がれるのだということはご理解いただけると思います。
by sig (2015-07-22 09:29) 

SILENT

最近台湾の映画で、「セッデック・バレ」四時間半の大作を見ました。自分が関心があった映画なので短いようにも感じました。
芸術作品というよりプロパガンダという主軸の映画でしたが、見応えがありました。
by SILENT (2015-07-22 14:56) 

路渡カッパ

8時間の映画、ずっと観ていたらお腹が空きますね。(^_^ゞ
6,200人収容の映画館というのも凄い話です。
映画隆盛の凄さ、その裏では制作者の悲喜こもごもの苦悩も窺い知れて勉強になります。
by 路渡カッパ (2015-07-22 17:22) 

sig

SILENTさん、こんにちは。
あ、ご覧になりましたか。高砂族、霧社事件の映画ですね。昔、日活最後の作品「戦争と人間」でそのワードを聞き、何のことかな、と思って調べたことがありました。映画はまさに、日本人にはほとんど知られていない85年前の日台間の暴動事件を再現し、今日の私たちに突き付けてくるわけですね。

口に含んで酒を醸し、首狩りを伝統とする高砂族と、大和民族との見識の相違に端を発したらしい事件のようですが、問われているのはやはりその対応に当たった日本の軍国主義、植民地主義なのでしょうか。

テーマが重くて長時間にわたるのでしょうが、事実は書物の上だけにして、どちらかというと楽しい映画が好きな私は避けて通りたいです。苦笑
by sig (2015-07-22 18:25) 

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