SSブログ

023 トーマス・アルバ・エディスン登場。 [技術の功労者]

023  インスピレーションでは浮かばなかった〈動く写真〉   
        トーマス・アルバ・エディスン ―1

IMGP7776.JPG
●エジソンと「フォノグラフ」(蓄音機) 1877(M10) 30歳

 
エディスンを世界に冠たる大発明家と呼ぶことに異論を唱える人はいないでしょう。
 当時の発明家たちは、自分の研究の秘密を守るということもあって、例外なく孤高でしたが、エディスンのアイディアは多岐にわたったため、「頭脳者集団」を構成し、手分けして研究に当たっていたところが大きく異なります。それにより、何種類もの研究を同時に進めることができたのでした。

 
また彼は数々の発明で特許をとり、発明をお金に変える実業面でも天才的な才覚を発揮した人物でもあったようです。
一般的には未だ職人的手工業生産が残る社会で、今日の先駆けともいえる分業化の経営手腕を発揮して効率を上げていた、名実ともに事業家、経営者と呼ぶにふさわしい人物でした。

 


●「フォノグラフ」(蓄音機)の成功で一躍スターダムに
 エディスンが発明の歴史の表舞台に登場するのは1868(M元)年あたりからのようです。1870年23歳の時に、証券取引所の電気表示機の特許が40,000ドルもの高額で売れ、研究所兼作業場を設立。潤沢な定期収入も得られるようになると、29歳までの6年間に300人もの作業員を雇うほどの急成長を見せました。この間に彼は発電や送電に関する120件以上もの発明を行い、実績と名声を欲しいままにしていきます。

 彼が、のちに「メンロー・パークの魔術師」と呼ばれるようになる、米国ニュージャージー州、メンロー・パークに研究所を設立したのは1876(M9)年のことでした。彼は名声を元手に
欧米の優秀な科学者や技術者を集め、今で言うプロジェクトチームを編成。その総帥として、電気事業に焦点を当てました。その構想は広く、発電、送電、通信、照明から電気鉄道(電車)や今でいう家電関係に至るまで広範なものでした。
 若くて気鋭の彼の脳裏には、鉄鋼王と呼ばれて財界に君臨していたアンドリュー・カーネギーや、石油産業で財を築いたロックフェラー一族のような大実業家の姿がイメージされていたかもしれません。鉄と石油の次に来るものは電気だ、という明確な読みがあったのではないでしょうか。

 
ところがこの年、音声を電波に変える新しい通信手段である電話の発明でグレアム・ベルとバッティング。特許申請は先に出したのですが、その2時間後に提出されたベルの申請内容の方が優れていたために、タッチの差で負けてしまいました。この時のエティスンの悔しさは、後にエディスンが関係することになる「GE」(ゼネラル・エレクトリック)と、ベルが設立する「AT&T」の時代になっても、ライヴァルとして続くことになります。  

IMGP7761.JPG
●時代背景  1879(M12)年、ドイツにジーメンスのおとぎ電車が登場した。

IMGP7779.JPGIMGP7780.JPG
●1890年前後には、電話は通話だけでなく、音楽配信や劇場中継などにも利用された。
  上/男性四重唱の電話送信   
         (4人の音声を蓄音機で録音したとすれば、マルチチャンネル録音になるところだった)
   下/劇場中継を聴くホテルロビーの賓客たち。
      
 さて、ベルに後れをとったエディスンが
、その技術の応用として思いついたもの。それが、音声を記録できる「蓄音機」という構想でした。音を記録するためにはメディアが必要です。彼は、蝋を塗った円筒を考え、それを回転させながら、電磁石の上に置かれた薄い振動板で増幅された音声の波動を針で刻み込んでいく方法を考えました。「蝋管蓄音機」といわれるものです。

 
音声を再生させる場合は、録音と反対に、蝋管に刻まれた音の溝を針でなぞり、その振幅を振動板によって音として再現します。その音は非常に小さいものでしたので、後に彼はチューリップ型の拡声器を取り付けました。エディスンはこの音声録音・再生装置を「フォノグラフ」と名づけました。

IMGP7775.JPG
●「フォノグラフ」(蝋管蓄音機) の仕組み  

サプライズをどう演出するか。話題づくりで大成功。
 1877(M10
)年12月のある日、31歳のエディスンは、前日に完成したばかりのその機械を携えてサイエンティフィック・アメリカン誌の編集室を訪れました。
 応対した係員の前にエディスンはその機械を取り出すと、たいした説明もしないうちに、やおらハンドルを回し始めました。するとどうでしょう。「こんにちは。初めてお目にかかります。私はフォノグラフと申します」と、機械が自己紹介を始めたのです。係員が驚いたの何の。それが早速記事になって欧米を駆け巡ったことは想像に難くありません。

 ところがフランスあたりのやっかみ連
から、「どうせペテン師のほら話だろう」、との声が上がりました。「…ならば」とエディスンは代理人をフランス科学アカデミーに送り込み、改良版の公開実験を行うことにしました。
 その時は一般の人たちもいっしょ。満場の会場が静まり返るのを待って、例の「フォノグラフ」自身による自己紹介が始まりました。

IMGP7772.JPG
●パリ、トロカデロにおける蓄音機のデモンストレーション
   水を打ったように
静まり返った大会場に、か細い音楽。だがその後は熱狂的な拍手、拍手! 

 それだけでも信じられないのに、次に代理人が声色を使って、「君はフランス語が話せるかい? もちろんですとも」と吹き込んだものを再生すると、代理人の声とは思えない低音の声が同じ言葉を繰り返しました。別人が同じ言葉を発したように聞こえて聴衆は戸惑いましたが、それは手回しの回転スピードが録音のときと違ったためで、代理人はすぐに自分の声と同じ感じの再生スピードでやり直しました。会場が沸き立ったことはいうまでもありません。

●発明の完成は、ゴールではない
 発明は、ただ特許を申請すればおしまい、ではありません。それを真っ先に生み出した人物が自分であることを世の中に宣言し、銀行家や投資家、資産家といった人たちから資金を集めて、事業として動き出さなければ儲けにはつながりません。そこにPRの大切さがあるのですが、そういった実務は、実は他の科学者や発明家たちがいちばん苦手の分野です。それに、研究の片手間でできるような仕事ではありません。

 その点エディスンはPRの効果をよく知っていましたから、そうした活動を行うスタッフも揃えていました。その素性は必ずしも感心したものではなかったようなのですが、それは次の機会に譲ることにして、とにかく一方は徒手空拳。それに対してエディスンは、プロデューサーとしてチームプレイを統率していたのでした。

 
当時、発明のPRといえば、発明家が学会などで講演を行ったり、実験を見せたりしていました。ところが「フォノグラフ」は人の声だけではなく、音楽を記録することもできるのです。
 エディスンは「フォノグラフ」は決して専門家向けの道具ではなく、社会全般に広く受け入れられるものであることを確信していました。

IMGP7770.JPGIMGP7778.JPG
●上/ピアノ演奏の録音  下/コルネットの録音 ともに1889(M22)年

 エディスン
は「フォノグラフ」の将来性について、次のポイントを挙げています。
◎速記者の代行ができる。
◎遺言状の代わりに使える。
◎離れていて会えない人や、他界した人の声が聴ける。
◎手紙を書く代わりに「フォノグラフ」で録音したものを送り、受け手が「フォノグラフ」で再生する。
◎小説を吹き込み、複製すれば、家庭でお茶を飲みながら名作を聴ける。
◎歌手の歌声を吹き込めば、安いお金で、毎晩でも部屋の中でオペラが聴ける。
◎録音フォイルの回転スピードを変えたり、逆に回したりすれば、変化に富むアリアを楽しめる。
◎子供たちの言語教育や、俳優の台詞の訓練に使える。
◎人の声を出す人形や、人の声で時刻を知らせる時計などの玩具に使える。

 これらの項目はほとんど、今日のニューメディアにもそっくり当てはまると思いませんか。エディスンが「フォノグラフ」の将来性について、ここまでのビジョンを持っていたということは驚嘆に値します。こうした洞察力は、さすがエディスンというしかありません。

 
発明を完結させることがゴールなのではなく、実はそこからがスタートなのだということを知っていたトーマス・アルバ・エディスン。彼は、「音声」の次に来るもの、それは何かも知っていました。ただし、それは彼の例のインスピレーションから生まれたものではなかったようです。エディスンが声の出る機械を開発している間に、アメリカとヨーロッパでは複数の発明家や科学者による〈動く写真〉の研究はどんどん進んでいたのです。

1-2 edison 6.jpg
●「フォノグラフ」(蝋管蓄音機)発明時のトーマス・アルバ・エディスン 1877

1888.6.JPG
●進化した「改良型フォノグラフ」とエディスン 1888
  
左の小型発電機で発電して電気モーターを回し、レシーバーで聴く。





nice!(43)  コメント(14)  トラックバック(3) 
共通テーマ:映画

nice! 43

コメント 14

般若坊

エジソンは発明家でもありますが、立派な事業家と言ったほうがいいですね。
個人でする研究・発明は限りがあり、彼が意図した通リ多くの共同研究者の力を借りることが必要です。最後の詰は彼のひらめきが必要ですが・・・
その研究者達のペイメントを確保しなければ、人はついてこないですよね!
エジソンというと米GEですが、私の会社はGEと多少関係がありました。 ^^
by 般若坊 (2015-04-04 20:31) 

響

当時は声が記録できるだけで
社会現象が起こっていたのですね。
今でも録音された自分の声が馴染めません。
by (2015-04-04 22:23) 

YUTAじい

おはようございます。
発明なら妻も喜ぶ?のですが。
手先が震えて来ます・・・積み重ねしか有りません。
何時も応援ありがとうございます。
by YUTAじい (2015-04-05 09:36) 

さる1号

発明家のイメージでしか見ていなかったのですが優れたビジネスマンだったのですねぇ
by さる1号 (2015-04-05 10:12) 

sig

般若坊さん、こんにちは。
他の発明家たちは一人で考え、商売はうまくないので、その多くは自分の特許を実業化できていないようです。どこかで書くつもりですが、その点エジソンは多数のブレーンによって生まれたかもしれないアイディアも、すべてエディスンの名前に集約される形で公開され、市場化されています。「エディスン」の名によるブランド戦略が実に巧妙になされていることに驚かされるのです(ディズニーも同様ですね)。それは、いい時はいいのですが、悪い時には悪くなるというリスクをはらんでいます。そのあたりをこの後に書いていくことになります。
GE関連でしたか。外資系にお勤めだったんですね。コメントありがとうございました。
by sig (2015-04-05 10:47) 

sig

響さん、こんにちは。
とにかく19世紀は面白いです。私たちの20世紀の原点があふれていますから。とくに情報関連では伝書鳩や郵便馬車から通信、電話へと動かずに情報を伝える技ができた訳ですし、記録と言う意味では音声が録音・再生できるということは画期的だったんですね。このような驚きと盛り上がりは最近全くありませんね。こんなちょっとのことでは驚かなくなっていることもありますが。あ、なんとか探偵社なんてのも、19世紀には大活躍でしたね。秘密結社ではあの有名なフリーメイソンなども・・
by sig (2015-04-05 10:55) 

sig

YUTAじいさん、こんにちは。
帆船工作、すばらしいです。随分進みましたね。完成楽しみにしております。
by sig (2015-04-05 11:01) 

sig

さる1号さん、こんにちは。
私は彼を、広報までをも含めて事業の総合プロデューサーだったと見ています。彼の言を借りれば、「自分が思いついたのは1%で、あとの99%はみんながやったくれたんだよ」・・・こんな見方もあったりして。笑

by sig (2015-04-05 11:06) 

シラネアオイ

こんにちは!
エドエンゴサク 食べれるようですよ!!
by シラネアオイ (2015-04-05 14:24) 

sig

シラネアオイさん、こんばんは。
わざわざお知らせありがとうございます。・・・とは言っても、近所にはありませんので、やはり北海道に行かないとだめですね。笑
by sig (2015-04-05 18:54) 

ゆうのすけ

エジソンがフォノグラフの発明をしていなかったら 趣味のひとつである レコード収集も無かったんですね。^^;プレイヤーはあるんですが なかなかレコードを聴く時間が無くて もっぱらCDばかり。^^
でも今や 音楽は配信が主流となり かたちのない存在がとても悲しく感じるんですよね。♪~
by ゆうのすけ (2015-04-05 20:50) 

sig

ゆうのすけさん、こんばんは。
形のない存在に・・・本当にそう思います。書物もビデオもCDもみんなクラウドコンピューティングで雲の上。いつでもどこでもと言うことですが、手元には何の形もないというのは、とてもこころもとないですよね。
by sig (2015-04-05 21:35) 

hatumi30331

面白い話しやね。
エジソンは、発明家で、営業マンも揃えるビジネスマンやったんやね。
成功するには、それらを全ては合わせてプロデュースする力が必要やね。 また雨降ってるよ。桜はあっと言う間に終ったね。次は・・・
八重桜と花水木かな?花盛りはまだまだ続くよ。^^
by hatumi30331 (2015-04-06 23:09) 

sig

hatumi30331さん、こんにちは。
実はエディスンを今回持ち上げておいたのは、次回からエディスンの影の部分に触れて行かなくてはならないからなのです。
桜、終わってしまいましたね。ちょっと寂しくなりましたが、若葉が芽吹いてきましたね。
by sig (2015-04-07 17:09) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 3